森・里・海連環(2022年2月)

昨秋、北海道八雲町の野田追川河口でサケ釣りに挑戦した。仕掛けは50グラム前後の派手な色彩のルアーに浮きを付け、さらにタコベイトの針にカツオの切り身の餌を付ける。サケは臭いや色に反応するらしい。長靴で浅瀬まで入り、仕掛けを遠投し、ゆっくりリールを巻き取りながらググっと来るあたりを待つ。付近を見渡すと波打ち際には落葉の葉っぱがゴミのように目立つ。竿先に重さを感じ慌てて巻き取ると葉っぱのかたまりばかり釣り上げたがサケはなかなか釣れない。ようやく二日目の夕間詰に80センチのきれいなメスのサケを釣り上げた。その野田追川上流をGoogleマップで眺めると、源流部には広大な広葉樹林が広がり、河辺林が続く。森林から流れ出る豊かな水は、農地を潤し、葉っぱと共に噴火湾に流れ込み、豊饒な内浦湾の漁業を支える。まさに森は海の恋人と呼ばれる所以であり、森・里・海連環のモデルがそこにある。

以前、北海道茅部町の養殖昆布の採集船に同乗させていただいたことがある。昔はこの河口付近の川から流れ出る河口沿いには天然のマコンブが生えていたが今は絶滅した。河川上流のブナ林がトドマツ林へ変化したことが影響したのではないかと聞かされた。

一方、西伊豆の戸田湾は、深くきれいな漁港として有名である。戸田湾に流れ込む集水域には唯一の小河川の大川がある。大川の流域には見事な森林が広がり、崩壊地などどこにも見当たらない。この流域の豊かな森林の育む淡水が戸田湾を美しく保つ要因だろう。河川から淡水の流れ込む場所には腐植酸鉄などの利用できる鉄分が供給されることが、豊富な魚種の釣りを楽しませてくれる要因であろう。

釣りをしながら、森林を見る、何気ない日常生活の中から自然と接する。楽しみながら自然の恩恵にあずかる。そこには、自然のメカニズムに触れる機会がたくさんある。どうしてそうなるのかや、へ―そうなんだ、と不思議に思う理由が分かると気持ちが良い。一歩進めると、なぜそうなるのか不思議に思ったり、その理由を考え、推測して仮説を立てる。その仮説を証明するためには、緻密で正確な実験や調査が必要となり、多くの有益なデータを収集しなければならない。そのデータを冷徹に処理し、得られた結果の論理性が正しく、理論の証明が学会などで認められれば、その仮説が、理論や法則になる。

 何年か前に、ゼミ研修で海から山を見ようと称して、湘南や伊豆方面へ釣りに出かけた。良く釣れる場所は、近くに豊かな森林を控え、きれいな河川のあることが多い。コロナ禍でも身近な自然に触れ、不思議を発見できる機会はある。暖かくなってきた、自然を楽しみながらその不思議を体験しよう。