樹木観察ツアー

 

はじめに

419日は、24節季の「穀雨」、前日の雨は、春の雨が大地を潤し、植物の成長を助けます。すっかり晴れて気温もどんどん上がり、汗ばむ陽気の中、藤沢市の長久保公園で樹木観察ツアーを実施しました。主催団体の湘南健康長寿研究会の河野会会長の挨拶に始まり、12名の参加希望者が全員参加されました。公園内には200種以上の樹種類がきれいに管理されています。事前の下見で確認できた樹種は111種でした。この樹木観察ツアーは、藤沢市をはじめとする湘南地域の方々を対象としています。観察ポイントは、藤沢市周辺に広く分布する在来種を中心にし、海岸から農地を経て里山へと北上する植生の変化を説明できるように心掛けました。配布資料に代表樹種24種類の写真と樹種名を参考までに用意しました(図参照)。2時間で園内を一回りし、30樹種程度を対象に植生の特徴などを説明しました。観察ツアー中に解説した内容をかいつまんで記載します。

 

樹木観察ツアーの対象樹木

マメ科植物の根粒菌

畑の大豆を抜いて根っこを見てみると、根っこに数ミリメートルの瘤のようなものがいっぱいくっついています。これは根粒と呼ばれる器官で、この中にバクテリアの一種の根粒菌と呼ばれる土壌微生物が住んでいます。根粒菌は大気中の窒素をアンモニアに変換し(窒素固定といいます)、植物の生育に欠かせない窒素を大豆に供給する働きをしています。ちなみに化学肥料のアンモニアは100気圧という超高圧、500℃という高温のもとで窒素と水素の化学反応で工業的に作られますが、莫大なエネルギーを費やします。根粒菌はこの反応を常温常圧でいとも簡単にやってしまう、まさに自然が創造した「超すぐれもの」です。大豆に限らずマメ科植物(エンドウ、ニセアカシアやクローバーなども仲間です!)は、根粒菌と共生して窒素固定しています。自然界は不思議ですね。

 

重金属を吸収する植物(ファイトレメディエーション)

チェルノブイリ原発事故で土壌汚染された地域の沼地周辺にヤナギを植栽しセシウムを吸収させた報告例があります。植物は土壌中に存在する様々な無機物を根から吸収し,それらを栄養分として自身の生育に利用しています。その過程で重金属を始めとする土壌中の汚染物質も一緒に吸収してしまうため,普通の植物は土壌汚染物質濃度の高い場所では生育することができません。ところが植物の中には汚染物質,特に金属類が多く含まれる場所に好んで生育し,さらに汚染物質を高いレベルで吸収・蓄積するものがいます。例えばウコギ科のコシアブラは土壌中のマンガンを特異的に吸収し,樹皮や葉に10,000ppm近く蓄積することが知られています。

一方、平成15年度の21世紀COEプログラム」に 採択された、「環境適応生物を活用する環境修復技術の開発」は、世界に1,000万ヘクタール以上存在する酸性硫酸塩土壌を対象としています。酸性硫酸塩土壌が分布する地域では、土壌の酸性化が急速に起こり、土地の生産力が低下し、最終的には不毛な土地となります。このような土地を再生するためには、酸性硫酸塩土壌に適応して生育・生息する生物を用いて環境を修復する手法を開発することが重要です。こんな土壌でも生育できる植物があるのです。周りに植物は見当たらないエリアに生育する”ショレア・タルーラ”は7年後に同じ場所の周辺には、他の野草類が生育しはじめた状況を確認しています。このような環境に適応する植物によって強酸性塩土壌改良を行い農地へと導入する技術を現地で実証したものです。この研究代表者は元日本大学生物資源科学部教授の佐々木惠彦教授です。

 

ムクロジのシャボン

お寺の境内でよく見かけるムクロジは漢字で「無患子」と書き、子どもが患わ無いという意味になり、子どもの健康を守る縁起のよい木とされています。

果皮はサポニンを含み、サポニンには水に溶かすと泡立つ成分があり、サイカチ同様石鹸代わりに用いられました。ムクロジはお寺の境内などに植栽され、黒い実は、お坊さんの数珠に使用されたり、羽根つきの羽の黒い球に利用されました

 

イチョウの樹皮は温かい 

イチョウの樹皮を触ると他の樹木より温かいので触ってみて下さい。イチョウの樹皮は、その分厚さと特有の構造により、他の木よりも保温性が高いです。太陽の熱を吸収し、放射する能力があります。そのため、触れると温かく感じるのです。保温性の高い理由:イチョウの樹皮はコルク質が発達しています。このコルク質は、樹木の幹を覆っている外皮部分で、弾力があり、温かみを持っています

 

樹高の高い木も水を吸い上げる細胞組織

樹高100メートルを超える高い木でも、根から水を吸い上げる仕組みは驚くべきものです。このプロセスは、根圧、蒸散、凝集力といった要素が組み合わさっています。

根圧:・植物の根は、土壌から水を吸い上げる役割を果たします。・根は枝分かれしながら伸び、土壌と接する表面積を大きくしています。・根毛は細胞内に物質を取り込み、土壌から根に水が流れ込むようになっています。・植物の細胞は半透膜で包まれており、浸透圧の差を利用して水を吸収し、根の内側の導管へ運ばれます。・根圧は、植物の茎を切断すると切り口から水が出てくる現象や、夕方や早朝に葉の先から水が湧き出る現象で確認できます。

蒸散:葉から水分が蒸発することによって、水を吸い上げる力が生じます。・葉の細胞液の濃度が枝や幹よりも高くなり、浸透圧が働いて水を引っ張ります。・晴天日には、葉の木部にある水の吸引力は高さ1メートルの植物でも1MPa程度に達します。

凝集力:・水の分子同士は静電的引力で引き合う性質を持っています。・水の凝集力と導管の壁の組成により、高い樹木でも根から頂上までの導管内で水柱がつながり、吸い上げられます。

 

コナラとハイイロチョッキリムシ:

ハイイロチョッキリの仕業って証拠は,すべての枝に,ドングリの若い実がついている事。ドングリに産卵した後,枝を落とすから。そしてドングリにしっかり,産卵した跡があります。ドングリを含む枝先を,短く切り落としています。どの枝もこのような位置で切れている,切り口はナイフで切ったように垂直にスパッと切れている。明らかに切り落とす位置を狙っています。成熟前の,まだ果皮のやわらかいドングリに穴を空けて卵を産んでます。

植物は,単に虫に食われるままになっているのではなく,虫にかじられた葉の切り口から,傷が無いときには出なかった,非常時だけ特別に分泌される物質が生産されると言います。その中には,葉を食う虫の成長を阻害する物質を出したり,葉を食う虫の天敵を呼ぶフェロモンの物質を出す例もあるそうです。一例でいえば,キャベツがモンシロチョウの幼虫に葉をかじられると,その傷口から出るフェロモン物質を頼りに,天敵であるアオムシコマユバチが飛んできますね。 

コナラの場合,葉っぱの傷口からオトシブミの幼虫の成長を妨げる物質を出すので,オトシブミは,ゆりかごを完全に切り落として,幼虫をコナラの葉から出す毒から守ると考えられます。

 

ツバキとサザンカの分布域:

両者の開花時期はサザンカが11月月から3月、ツバキは12月から4月で、ツバキが1か月遅くなります。暖かくなる4月に虫を始めとする昆虫や鳥たちの活動が活発になります。開花時期の遅いツバキは受粉機会を多く持つことで、分布域を拡げたという説が一般的です。サザンカの分布域は西南日本、ツバキは東北地方まで広く分布します。

 

ツツジとサツキ剪定時期:

つつじ(ツツジ) やさつき(サツキ)4月〜5月頃にかけて花を咲かせ、6月中旬頃から7月頃には花芽がつき始めています。花が終わってから翌年の花芽がつくられるまでの期間が短い花木です。したがって剪定は、この花芽がつく頃までに済ませる方がよいようです。

 

キョウチクトウの毒:

キョウチクトウは、東北地方南部以南の日本全国に分布する常緑樹で、庭木や街路樹に用いられています。植物全体に心臓毒性を有するオレアンドリンが含まれており、少しの量でも摂食すれば中毒を引き起こす。キョウチクトウ中毒は人を含めすべての動物で起こります。毒成分は致死率が非常に高いことで有名です。主に含まれる「オレアンドリン」の場合人間が死に至る量は「0.30mg/kg」で「成人で葉5枚~15枚」ほどの量で死亡するといわれています。

青酸カリよりも強力な毒性物質は、キョウチクトウの成長と共に量が変化するのが特徴です。なかでも美しい花を付ける開花期はとくに危険とされ、より一層取り扱いに注意しなければなりません。

 

タブノキの薬効:

タブノキは、照葉樹林の代表するクスノキ科の常緑高木です。湘南エリアのような暖かい海岸沿いにシイやカシとともに自生します。春の若葉は赤みを帯びてきれいです。古くは丸太船の材に使用されました。タブ粉は線香や蚊取線香に(粘結材)使用されます。また捻挫や足の筋肉のつりに効用が有ります。根や樹皮を潰して患部に塗布します。また,小児の乾性頭癬には,熟した果実を黒焼きにし,ゴマ油で練って患部に塗布します。

 

サンドペーパーのムクノキの葉:

関東地方以西の本州、四国、九州及び沖縄に分布するニレ科の落葉高木です。ケヤキやエノキの仲間で、日当たりのよい身近な低山や丘陵において普通に見られ、公園や街路にも植えられています。葉は互生し、葉身は卵状長楕円形、葉先は鋭尖頭、葉脚は広いくさび形で、左右不同です。縁は鋭鋸歯があります。表裏共に短い豪毛があり、ざらつくので、骨や角細工など柔らかい細工を磨くのに用いられます。

 

モクレンとコブシの見分け方

ハクモクレンは、花弁が9枚、花の大きさが810㎝、花弁は開ききらないで、花が上向きに咲きます。一方のコブシは、花弁が6枚で、花の大きさが4~5㎝です。花弁は開ききり、花は横向きのものと上向きのものが混じります。

 

スダジイ

暖地の海岸沿いの山地に多く分布します。神奈川の潜在植生の代表です。樹高は25mになり、よく枝分かれし、多くの葉をつけ、樹冠は球状に盛り上がるのが特徴です。庭や公園などに、植栽されます。堅果は翌年の秋に熟し、円錐状卵形で食べられます。熟すと殻斗が3つに裂けて、中に実が落ちていきます。よく似たコジイ(ツブラジイ)は西日本に多く、実は丸みを帯び、スダジイより小さいのが特徴です。

 

シイ類はなぜ実が多い?

年に1回しか開花しないブナ科の樹木の生態を基準に考えると、年に複数回開花することを前提とするシイ類は、一年成よりも二年成の方が結実量を増やせるという優れたメリットがあるのです。この前提は、現在でもブナ科の多くの種類の樹木で季節外れに開花する個体が存在することを考えれば、二年成が誕生した太古の昔には、これが一般的な生態であったことが容易に想像できます。

 

葉は広いが針葉樹のナギ:

葉身は楕円状披針形あるいは卵状楕円形、両面とも無毛、縁は全縁。中央脈が無く平行脈です。ナギの名が、海の凪に通じることから、航海の平穏を祈るご神木となっているのでしょう。

また、別名がいろいろあるように、葉を葉脈の方向に引っ張ってもなかなか切れない。この強い葉から、男女の仲を結び付ける力も強いと信じられていました。昔は鏡の底にナギの葉をいれ、夫婦の縁が切れないよう、離れていても忘れぬよう、と願ったようです。別名はチカラシバ、ベンケイノチカラシバ、センニンリキとも呼びます。

 

チャノキ:

チャノキはツバキ科でもともとは亜熱帯の樹で、栽培の条件としては、気温や降水量(湿気)が重要です。茶畑は霜や風の影響を受けにくいところに作られます。葉は互生し、葉身は長楕円形で縁には細鋸歯があります。葉脈に沿って凹み、脈間は凸出、側脈は縁まで届かないのが特徴の一つです。中国では、神農の逸話に、お茶の葉を食べていたと伝えられていて、紀元前2700年頃(神農時代)がお茶の発見とされています。日本では奈良、平安時代に、最澄、空海などがお茶の種子を持ち帰ったのが最初とされています。広く栽培されるようになったのは、鎌倉初期(1191)に栄西が持ち帰ってから。栄西が持ち帰った種子は、京都栂尾にも蒔かれ、宇治茶の基礎になりました。鎌倉時代には武士の間で、喫茶の文化が広まりました。15世紀から16世紀にかけて、村田珠江や千利休などによって、新しいお茶の礼式が作られ、武士の間に流行し、今日の茶道と言われます。 

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藤沢市周辺の樹木24
樹木観察ツアー時に配布した資料です。
藤沢市周辺の樹木24.pdf
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